(レポート/中 由里)
■いろいろある
肥満
−−子どもの肥満が増えているのは事実なのですか?
確かに日本では、近年肥満児が急増しています。肥満は幼児期から学童期へと移行することが多く、特に思春期肥満の大半が成人肥満へ移行して生活習慣病の温床となると考えられています。−−どの程度太っている状態を肥満というのですか?
偽のあざを作る肥満の判定基準にはいろいろありますが、小児科で主に使っているのは「肥満度」です。年齢や性別によって身長別標準体重というものがあり、それに対して何%体重がオーバーしているかを出したのが「肥満度」です。一般に20%以上であれば肥満とされ、50%以上で高度肥満と診断されます。
肥満度を測定した上で、それがいい肥満か悪い肥満かを診察します。私は、その判定基準として、「黒色表皮腫」がないかどうかを診ます。これは、首や脇の下の皮膚が黒く変色した状態です。脂肪には内臓脂肪と皮下脂肪がありますが、その蓄積によってインスリン抵抗性が増加し、糖尿病発症につながります。黒色表皮腫はこの反映だと言われています。これがある子は、生活習慣病の検査結果もかなり悪いという結果が出てい ます。
腹囲も重要な診断基準になります。小児では、80pを超えると、脂肪肝になったりインスリンや中性脂肪が高くなっていることが多いようです。その他、採血や血圧などで異常があるかどうかを見ます。
いびきとCPAP不耐症のために
ただ肥満であるという上に、いろいろな異常が重なっている状態を今はメタボリックシンドロームと呼んでいます。これは相当悪い肥満状態で、生活習慣病の一歩手前の状態です。肥満といっても、ごく軽い段階から病気に結びつくような深刻な状態までいろいろあり、ひとくくりにはできません。
■遺伝子との
関係は?
−−悪い状態の子どもは大人のように生活習慣病を発症するのですか。
例えば二型糖尿病ですが、肥満頻度が増えるのと平行して発症が過去30年間で増えています。動脈硬化の検査で子どもに異常が見られる場合はまれですが、私の肥満外来に来る肥満の子ども達には、FMD(Flow-Mediated Dilation 上腕動脈の安静時に対する駆血解除後の血管径増加率を%として計測するもの)の値が明らかに悪い子が多く、まだ因果関係がはっきり証明されたわけではありませんが、これは動脈硬化に至るいちばん最初の変化ではないかと言われています。このようなごく初期の変化を小児科では捉え始めています。
−−肥満の原因は特定できるのでしょうか。
"低体温"戦後の食生活や運動習慣の変化がもたらしたものと考えられますが、もう一つ注目され始めたのが、肥満関連遺伝子です。脂肪が燃えにくい体質、代謝が節約されやすい体質を持つ遺伝子があるのは事実です。
ただ、これらは、一つの遺伝子だけで決まるわけではなく、10、20、あるいは何百もの遺伝子が関係して体質を作っていると言われています。ですから、現在肥満治療は、食生活や生活習慣の見直しを中心に行っていますが、いずれは遺伝子レベルで人の体質や個性を調べて、そのデータに基づいた肥満治療が確立する時代が来るでしょう。それが50年後か100年後かはまだわかりませんが。
■治療は
継続が重要
−−治療はどのように行われますか。
症状が重い子どもであれば入院ということもありますが、大体、生活習慣改善の指導ということになります。食習慣では、砂糖類、間食の抑制、成長期に必要な栄養素を十分に摂れるようなバランスの取れた食事を心がけることなどです。その他、運動や生活リズムなど、改善すべきことも指導し、定期的な来院で生活を振り返ります。まじめに取り組めばかなりの効果が期待できるのですが、一番困るのは途中で外来へ来なくなってしまうことです。特に低年齢の子どもの場合、親がいかに熱心であるかが治療の成否を左右します。思春期になってくると、親との関係も影響します。自立して自覚し、本人がその気になると大変よい結果になることが多いのですが、親との関係において障害� ��あると、なかなかうまくいかないケースがあります。「続ける」ということが一番大切なのです。
現在、各地で行われている小児・青少年を対象にした生活習慣病検診は希望制で、受けてほしい人が受けないというジレンマもあります。子どもの生活を改善しようとすれば、親の意識を変えなければいけません。学校のヘルスエデュケーションの中でそうした投げかけをしていただければと思います。
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