突発する「激しく裂かれるような」背部、前胸部、腹痛、腰痛で発症する急性大動脈解離は大動脈内膜の亀裂により大動脈中膜が解離して発症し、発症2週間以内に大動脈破裂や種々の合併症で死亡することが多く、死亡例の 90% 弱 が心タンポナーデによる突然死(Stanford A)とされている。
近年、血管外科の進歩により手術成績は著しく改善したが、解離部位、解離の進展により治療方針は異なり、早期診断、治療方針決定がその予後に大きく関係する。
大動脈解離の治療原則は、急性期の破裂、心タンポナーデ、臓器虚血の防止で、Stanford A 型では急性期手術が原則であり、B 型は内科治療とされているが、当然、大動脈破裂、臓器虚血の可能性があれば急性期手術の適応となる。
すなわち、主訴が突発して現れる本症は、急性心筋梗塞症などを鑑別診断にして救急外来へ受診することが多く、速やかな診断、適切な初期治療、急性期外科的治療の適否の判断、この3点が救急診療において必要とされている。
[1]診断
1. 大動脈解離とは;
中膜の深さまでの剥離が少なくとも 1cm 以上にわたって解離し「壁が2腔となった状態」
true lumen and false lumen, entry=primary tear and re-entry
解離性瘤= dissecting aneurysm
欠点はグループ内のうつ病
2. 解離の診断とは
存在診断(高速 CT);「大動脈壁が2腔になっていることを証明すること」
拡がり、形態、サイズ (CT による3次元構築像はなお有用)
病型診断(経食道大動脈エコー図併用);
偽腔の血流状態、 Stanford 分類・DeBakey 分類(後項参照)、発症日時、誘因
合併症;
「多彩な臓器障害症状や遠隔した臓器障害が同時に見られる場合には本症を念頭に置いて早期診断することが本症の診療ににあたる医師の役割となる」
(解離が進展していく臓器それぞれに障害が生じる)
発症時症状(90-95% の患者で胸痛、背部痛、胸背痛;痛みの傾向:疼痛が移動、発症時が最も強い、労作後が半数)、意識状態、vital sign、心(頸部)雑音、尿量、四肢脈拍・血圧(著しい高血圧、上肢の左右差、上下肢の血圧差)、腹部所見、神経学的所見 の全てをチェックする。
<上行解離:前胸部、喉・首・顎の痛み>
心筋虚血(冠動脈、ECG ・ST ↓↑:急性心筋梗塞症は鑑別診断、且つ併発がある!)、大動脈弁閉鎖不全(呼吸困難・心不全)、心タンポナーデ(ショック)、脳虚血(頸動脈、視力障害・意識障害・麻痺)、上肢虚血、縦隔出血・胸腔出血
<下行解離:背部・腰部・腹部・下肢の痛み>
強く疑われる際は腹部エコー図を優先
脊髄虚血(対麻痺)、腸管虚血(上腸間膜動脈・腹痛)、腎動脈血行障害(腰痛・急性腎不全)、下肢虚血(下肢脱力)、縦隔出血・胸腔出血、後腹膜血腫
3. どのように分類するか
画像診断は外科的治療を選択すべきか否かに焦点を絞り、最小限に留める。
水の消費量の減量
・ 解離の範囲;Stanford, DeBakey 分類
・ 偽腔の血流状態;
心腔と交通する偽腔に血流がある= 偽腔開存型 "double barrel"
=急性期外科治療
急性期画像診断より偽腔に流入が見られず、急性期より既に偽腔が閉塞している=血栓閉塞型=内科的集中治療の適応可能
(vasa vasolum の出血=intramural hematoma を含む)
*交通孔であったと思われる画像上の痕跡=小突出 protrusion=血管造影で称されていた ulcer-like projection (ULP) についてはあくまで慎重に対応する(拡大傾向のフォロー)。
・ 発症時期;24 時間以内=超急性期、2 週間=急性期
4. まとめ :診断フローチャート「本症を疑うこと」
胸背部痛 → 鑑別診断:急性心筋梗塞、肺塞栓(胸痛の鑑別診断の項を参照)
↓
ECG → 虚血性変化:心筋梗塞との鑑別・併発
(Stanford Aの際の冠動脈入口部への解離の進展・断裂)
電気的交互脈(血圧・脈圧↓、奇脈)→ TAMPONADE !
上昇の肥満
胸部X線写真 → 縦隔拡大、大動脈石灰化、弓部上方偏位
(但し上行動脈の拡張は胸骨後面に生じるため1/6の患者の大動脈シルエットは正常)
気胸の除外、血胸の疑い
↓
経胸壁心エコー図 → 心タンポナーデ、上行(下行、弓部)フラップ、大動脈閉鎖不全の有無の確認
腹部エコー図 ← DeBakey I, III a, III b (つまり II 型以外)に 実施
↓
超高速 CT:存在診断、確診;造影検査故、アレルギー・腎不全に注意!
経食道心エコー図: 動的情報=Doppler による血流情報・偽腔の安定度評価に不可欠
但し、十分な降圧・鎮痛/鎮静の上で行う。
→偽腔血流あり、Stanford A → 外科治療
B → 合併症あり → 外科治療
なし → 内科治療
→偽腔血流なし→ 小突出像あり、拡大あり → 内科治療後 外科治療
小突出像なし → 内科治療
* 大動脈造影= 依然有用な検査ではあるものの解離悪化・破裂の誘因となりうるため、第一選択にはならないが、分枝血流の障害の有無の評価に最も優れ、臓器障害が強く疑われる際に、また緊急手術を前提として外科医とともに実施することが多い。
IV-DSA は大動脈への障害の危険がなく有利。
* MRI = 本法一つで Echo, CT, 大動脈造影の情報が得られるが、長時間要し、呼吸器、モニター装着下での撮像に問題があるため、急性期使用は限定される。
* 経食道エコー図はプローベと Aorta の間に気管・気管支がある 一部のみは死角になる。
Stanford 分類 | DeBakey 分類 |
A: 上行解離 | I : 上行と下行に解離が広がる |
II : 上行に解離が限局 | |
B: 下行以下に 解離が限局 | III a : 下行・横隔膜上に解離が限局 |
III b : 下行・横隔膜下に解離が広がる |
[2]初期治療
1. 緊急降圧療法:
(1) 診断が確定次第、速やかに開始。
時間尿 1ml/kg を目標に疼痛が軽減するまでSBP 経口投与 (静脈ラインが確立するまでの一時的治療)
: ニフェジピン カプセル 5 mg (アダラート5(R))舌下投与
経静脈投与
: ジルチアゼム(ヘルベッサー(R))5-15μg/kg/min. DIV
ニカルジピン(ペルジピン(R))10μg/kg, IV:速効、DIV
(2-10μg/kg/min)へ移行。
ニトログリセリン(ミリスロール(R))0.1-5μg/kg/min. DIV :
降圧作用は緩徐
プロプラノロール(インデラル(R)): 0.5mg IV (最大 0.15mgまで)
[禁忌] 気管支喘息、糖尿病性ケトアシドーシス、徐脈、ブロック
トリメタファン(アルフォナード(R)):0.5-5mg DIV
[禁忌] 閉塞性動脈硬化症、腸管麻痺には禁忌。筋弛緩作用有り 、呼吸不全に注意。
【注】 ニカルジピン、ニトログリセリンにて降圧をはかる際には、陰性変時作用・変力作用を有するプロプラノロールを併用する。
2. 疼痛管理:
必要に応じて鎮痛・鎮静;塩酸モルヒネ(R) 5-10mg IV
人工呼吸管理を要する際も十分な鎮静を行う。
3. ショック対策:
破裂・心タンポナーデを想定し、輸血、救命蘇生用具を手元に用意。
心嚢穿刺によるタンポナーデの解除は、昇圧から解離の悪化を招来し、血行動態が安定していれば施行せず、可及的速やかに手術を実施する。しかし、血行動態が破綻した際には、この解除無しには救命は困難なため、心嚢穿刺を実施する。この際にも排液は血圧に留意し、過度に昇圧しない最小限度の排液に留める。
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